(ホーエンハイムの一人旅中の話。)
毎年行われているはずのハロウィンは、人と接することの少なくなった俺にはあまりにも久しぶりに思えた。
「おじさん!トリックオアトリート!!」
そう無垢に笑う幼い顔は、ブランコを貰った時のエドワードを彷彿とさせた。
あれからもう10年。
今ではたぶん、その幼さは無くなってきているのだろう。俺の中にその顔しかなかったとしても。
アルフォンスに至っては赤ちゃんらしいふにゃりとした顔しか覚えていないけれど、今ではこんな走ってうれしそうな顔をするのだろうか。
それとも、その笑顔を恥ずかしがるくらい成長したのだろうか。
「はい、こんなものしかないけど」
突然のことでハロウィンに似合ったお菓子など持ち合わせておらず、ポケットに入っていた乾パンのような食べ物をわたすことしかできなかった。
彼にとって見慣れないものだったようで少し首をかしげていたが、口にして満足したようだった。
「ありがと!」
彼が走りさっていき、オレンジの光の中へ溶け込んでいく。
町中がランタンで照らされていて、子どもも大人も今日はこの中に混じりこんでいる。
そして、少し長く生きた俺ですら知らないお化けだってこの中にはいるのかもしれない。
「この中に君がいればいいのにね」
リゼンブールからは何千キロも離れた場所なのに、こんなにも自分の眼の前に彼女がいてほしいと思う。笑ってほしいと思う。もちろん、自分から離れたのだけれど。
彼女のパンプキンパイを食べたくてしょうがなくなってきた。
子どもも大人もお化けもいそうで、なんで彼女がここにいないのか。それは俺にとってあり得ないことであるはずなのに。
「トリシャ」
言葉にしたとたん、「バカね」という言葉がふわりと耳に触った。
遠くのランタンの光から彼女の笑顔が見えたような気がする。
「すぐ帰るよ」
見えていたはずの影は一瞬で消え、子どもたちのきゃっきゃという楽しそうな声が前を通った。
「ああ、分かってる。エドとアルの父さんになれるよう頑張るよ」
そしてオレンジの光に背を向け、調べごとを続けることにした。

パパとママの話はすごく描きたくて。この夫婦好きです。あとロックベル夫婦も。嫁と子らびゅーなパパが好きです。でも不器用すぎるんだ。
トリシャさんが亡くなってるのを知らずに旅してたんだなとおもうと切ない気持になります。
戻