(増田組っぽい。)
「なんだか人が少なくないか?」
ロイ・マスタングは会議から抜け出し、夕暮れのさす廊下を歩いていてふと思った。
一直線に伸びる壁のコンクリートが燈の光をやわらかくうけとめている。
いつもならこの時間、帰るか夜勤かで歩いている人が多いはずなのに。
横にいた彼女、リザ・ホークアイに問いかける。彼女の濃い金の髪はオレンジきらりと染まっていた。
「今日はみんな警備に出払ってますからね」
ああ、と彼女は窓の外を眺めながら書類を持ち直した。
「?」
促されて窓から外を見てみれば、町中に広がるかぼちゃのランタン。遠くの夕日とろうそくの光が混じって、不思議な世界が広がっていた。
「…今日はハロウィンか?」
さっぱりと気が付いていなかったけれど、お祭りと知ってほっと心が和む。
「ええ、夜に多くの人が出歩きますから今日は警護で人が出ているんです」
「フム」
と少し考え込むようなしぐさをして、悪戯っぽく尋ねる。
「……君も昔はあの中に入っていたのかい?」
小さな子どもの参加する行列は夕方からもう始まっているようで、窓には動く橙の光が浮かんでいた。
「ええ、毎年の楽しみでした。いつもの知っている町が魔法にかけられたみたいで」
だんだん夕日は町の建物の中へ隠れていって暗い世界が広がり始めた。
同時にろうそくのぼやりとした光が町を照らす。
「そうか」
「ええ」
「私はなかったんだ。そんなことがあることも知らなかったのだよ」
「そうですか」
そして二人ともが無言になる。
コツコツと歩いている廊下も外と一緒に暗くなっていく。
ハロウィンのふんわりとした空気をこの建物は到底持ち合わせていなかったが、それでも柔らかい光に包まれていくのだった。
二人がいつもの部屋に帰る頃にはもうすっかりと日が暮れていて、扉を開けると暗闇が拡がっていた。リザが明かりをぱちりとつける。
すると、いつもロイが座る正面の席にはなぜかハボックが座っていた。
「トリックオアトリート!」
両手を広げたハボックの笑顔に二人は少しポカンとする。
その二人の後ろから、ブレタ、ヒュリー、ファルマンといういつものメンツ。手に持っているものはビンと菓子。
「こういう日は浮かれるもんっすよ」
ヒュリーがなみなみと注ぎだしたビンの中からは黒い液体。ファルマンはクッキーやらチョコレートやらを並べていく。
「そうなのか!」
と、眼を煌めかせて言ったのはロイ。それに頭を抱えたのはリザだった。
「今は勤務中ですが?」
ハボックによって端に寄せられたと思われる机の上の残った資料に目くばせする。
それをみてキラキラしたロイの眼がどよんとしたのは明らかだった。
「もう6時ですから。今日の勤務は一応終わってますよ」
ブレタが大きな時計の方を見ながら言う。
それに便乗してあれやこれやとハロウィンを楽しみたいと彼女に訴え続ける男たち。
「休憩も必要っすよ」
最後は満面の笑みのハボックで、リザはふっと声を漏らした。それにうれしそうな顔をする面々は子どもそのものだった。
「じゃあ少しだけ、ですよ」
その言葉を封切にさらに色々なものが拡げられていく。
いつの間にやらロイの頭には魔法使いの帽子がのっていた。
お酒はハロウィンに合わせてブラックウォッカ。皿にばら撒くように置かれた菓子に描かれているものはジャック―ランタン。
このコンクリートの味気ない部屋にもハロウィンのわくわくとした空気が流れてくる。
懐かしい、とリザは思った。そしてこの懐かしいと思ったこの空気を、彼はどう感じているのか少し聞いてみたくなった。
けれど、それも野暮だろうと思ってクッキーに手を伸ばす。
ふと窓の外を見れば町中には暖かい光が拡がっていた。

軍のみんなの話を描きたいと思って。幸せな日を過ごしてほしいと思います。
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