(エドウィン。恋人っぽい。ネタばれは特にないと思います。)











「ただいまー」

玄関のカラカランという金属の音と一緒にもう何か月と聞いていなかった声が響いた。
電話で聞いてはいたのだけれど、気持ちが落ち着かなくてキッチンからバタバタと走って飛び込んでしまった。

「おかえり!!」

そんな私を難なく受け止めた彼は、予想以上に服や顔が煤けていた。

「ちょ、ウィンリィ!オレ汚れてる!!あ、後で!」 

妙にオロオロするエドに笑ってしまった。

「別にそんなこと気にしないわよ」

一体どこに行ってたのか、なんでそんなに汚れているのか、アルはどうしてるのか、とかとか色々気になったのだけれども後で聞くことにして。
ぎゅっと久しぶりの暖かさを抱き込んでしまう。そして反射のように彼の大きな手も私の背中にまわされた。
それにほっとして深呼吸。


はたと、煮込まれた甘いリンゴの香りがふんわりと泳いできた。

「お?アップルパイ?」

エドも気がついたようで。

「うん、明日の準備」

「ビンゴ!お前がアップルパイ大量に作るんだろうと思って今日帰ってきた」

顔を綻ばせた彼の予想は大当たり。
明日はハロウィンの行列の日。配るお菓子は近所でも評判のアップルパイのつもりだった。

「あんたにそんなにはあげられないわよ?」

「聞こえねぇ」

ぷいと顔をそむけるのは子どもそのもので。思わず笑ってしまう。

「明日は手伝ってくれるんでしょ?」

とキッチンの方へ歩いていく。一歩一歩と進むたびに揺れる香りがおいしそうだ。

「ああ、アルも明日アップルパイ食べにくるってさ」

二人が帰ってくるときにシチューとアップルパイは欠かせないので、わざわざ明日を選ばなくてもいいと思うのだが。

「あら。じゃあ、もうちょっとリンゴ買っておけばよかった」

キッチンにはこれ以上ないと言うほどの甘い香りが充満していた。
先ほど出来上がったいい柔らかさのリンゴを後ろについてきているエドの口に突っ込む。

「あつっ!…んまい」

ほくほくとうれしそうな顔を見て満足する。
よしと生地を用意していたら、横から鍋のリンゴをつまみ食いを始めたエドの手をぺちっと叩く。

「いいじゃん、ちょっとくらい」

「あんたのちょっとはちょっとじゃないのよ。ちゃんと後で焼くから、お風呂入ってきたら?」

「そうだな…」

改めて見るも、もう洗うしかないと思うような全身。足元は泥がはねていて、顔は煤けている。

「どこ行ってたのよ…そんな汚れて…」

「うーん、砂の多いとこ行ってた、かな?お前も一緒に入る?」

「バカなこと言ってないでほら、早く」

コートをはぎ取りながらバスルームの方へ促す。頭を掻きながらこちらへ振り向くエド。

「……本気なんだけど…」

自信なく言っているのがあまりにも彼らしくなくて。
いや、彼らしいと言うのか。少し笑いそうになってしまった。

「アップルパイちゃんと作っておくから。ね」

念押ししてリンゴの鍋に覗き込む。
彼はお誘いをあきらめたようで「はーい」と方向転換。
その背中は大きいのだけれど、いつまでたっても子どもで。
なんだか、嬉しい気持ちになってくる。



明日はハロウィン。甘い香りに誘われて、みんなお菓子の所に帰ってくる。







ネタばれは特にないように。最後はどうしていいか分からずグダグダしてしまった…
ハロウィンが楽しい日でありますように、と思って。