よるとつきと、きみと。







なんとなく目が覚めて、ベッドから身を起こす。突然の寒さに身ぶるい。
なんて時間に起きてしまったんだ。
フローリングについた足の裏が冷たいと叫ぶ。
何か温かいものでも作るか、なんて考えながら靴をはいた。

周りは真っ暗で、当然全ては寝静まりかえっていると思っていた、
けど予想は外れて。
暗い階段を降りると少しの明かりが見える。

その明りの中にいたのは、ウィンリィ。
彼女の向かいにはコンロ、そしてその上に銀のポット。コトコトと音が鳴るのは香りからしてレモンティー。
冷え込んだ部屋に、そこだけぽっと温かさが生まれているよう。
「…起きてんのか?」
びくっと薄い金の髪を震わせて振り返った。
「………びっくりした…エドこそ、なんで起きてんの?」
本当にびっくりしたみたいで、目がちょっと見開かれている。
「いや、なんか目さめて…」
逆に聞かれてしまって、特に意味なんかなかったからなんとなく答えにくい。
そんなオレに珍しいわねーなんて笑って、もう一度コンロの方へ向く。
火は止められて、濃い紅色の液体が机に置いてあった白いカップへと吸い込まれていく。
「あんたもいる?」
「あ、ああ」
棚から新たに出したカップにとぷとぷと注がれる。
湯気が静かに立ちのぼり消えていった。


机で向かいあって座って、熱い紅茶をすする。
静かな空気と暖かいコップに思わず深呼吸。
そんな意味のないことをしてた。
「今日はね、」
そうウィンリィがカップを机に置きながら言いはじめる。
紅茶はまだ半分ぐらい残っていた。
「月が綺麗だったから起きてたの」
「月?」
指を差されて、窓に振り返る。
気がつきもしなかったけど、全開。
どおりで寒いはずだ。
はためくカーテンの隙間から、大きな黄色の満月が目に飛び込む。
額縁のような窓のさんが反射して白く光っている。
「すごいな」
思わず感嘆。
「でしょ?」
ウィンリィは席を立って、窓の方へ行きカーテンをも開けてしまう。
月の光はなんとなくまぶしいぐらいで、彼女の頬が白く照らされる。
そして金の髪はサラサラキラキラと音を立てるようになびいていて、見入るその蒼い瞳に月が写っていて、睫毛までがふわりと光る。
これはさきほどの月への感嘆どころではなく…

「綺麗だ…」

思わず言葉が出ていたみたいで。
手で口をふさぐ。たぶん、予想しなくても顔が赤くなっている。
そんなこと言うことなんか恥ずかしすぎて。
「?エドがそんなこというの珍しいね」
彼女は月に対しての賛辞だと思ってくれたようで。
うまくかわすことができる。
「オレだってそれぐらい感じる」
「あはは、そうだよね、ごめんごめん」
この月はすごいよね…なんて続けてるけど、うん、月にそんなに感動したことはねーよ、お前の予想どうり。


「外行って観てみるか?」
ずっと見つめてる彼女に提案。
そう言うと彼女の眼がこちらを向いて笑う。
「うん」





外に出るとさらに月は大きく感じられた。
「わ―!すごーい」
ウィンリィはそう言いながら上しか見てない。
辺りは明るく短い草達が、みなものようにきらきらと揺れている。
明かりのついた家もないのに、よく見渡せた。

「ウィンリィ」
呼びながら左手を出す。
「え?」
やっとこっちを向いた彼女は首をかしげた。
「上ばっか見てるとこけるからな」
そう言いながら彼女の右手を取る。
いつ、こけてしまうのかハラハラしながら隣で歩いてるよりは、と思って。
いつもはこんなこと、できるはずもない。
でも、なんとなく自然にそんなことができた自分がいた。

彼女は合点が行ったようで、強く握り返す。
「ありがと、しっかり握っててね」
そう満面の笑顔で言われてしまえば、オレは俯いてしまう。
でもつないだ手はお返しのようにギュッともう一度握る。
思っていたより柔らかで、ちょっとだけ冷たい手にどれぐらいまで力を入れていいのか分からなかった。
もうオレはそこにしか意識が集中できなくて、何しに来たんだかも忘れていた。
お互いちょっと痛いぐらいに握っていて、ウィンリィは上を見て俺は下を見て、二人で歩いている。






「月には不思議な力がある」なんて曖昧なことを信じたことはなかったけれど。
このオレが手をつなぐなんてことできたことは月のおかげなんだろう。
「すげぇな」
そう褒めたたえておく。
「そうだね」
ウィンリィはオレの言ってる意味を知りもしないでそういう。
























やまもおちもないです。こんな意味のない感じが良いと思うのですよ。