海の中でも君を思う・5









エドワードは、日の光がカーテンから漏れているのに気が付いた。



意識を自分の方へ手繰り寄せる。









ゆっくりと目を開けるとそこはやはり,見慣れない白い天井。











状況が飲み込めないで、横を見れば。



















白い肌を光らせる……女(ひと)。









「女神」のように優しく、救いの手を伸ばしてくれた女(ひと)。



「女神」のように美しく、一度見ただけで忘れられなくさせた女(ひと)。









幸せそうに寝ている。





ボッティチェリのあの女神の誕生を思い出させるような、柔らかで白い素肌がシーツに包まれている。





日が明るくなる前には、その全てに触れていた事に、エドワードは妙な興奮を覚える。

と、同時にあれだけ理性を作り上げたのに、いとも簡単に崩れた事に気が付く。



神聖に思えて仕様がない彼女に、手を出した自分。

汚れた自分。







そこまで考えが至ると、平静を取り戻した。









ため息を一つ落とし、しわが強く付いたYシャツに袖を通す。





下着はもう、身に着けるような状態ではなかったが、一応付けておく。



そしてよろよろの服を全て着終えた時になっても、ウィンリィは眠りについたままだった。















彼女が起きる前にここを出て行こう。



オレと関わったことは決して良いことではないから。



――彼女に起きて欲しい。

でもできるなら,覚えててほしい









本心が交錯したまま、中途半端な自分は手紙を残していく。





どこから持ってきたのか、またも深紅のバラを花瓶に一輪。



少し萎れたそれの横に注す。







「ありがとう」





そう言って、もう一度だけ彼女の頬に手を添えて。



そしてやはり中途半端な彼は出て行った。

































後悔したのは、どうしても「また」と書けなかった事だった。

















































































































Dear My Goddess



Thank You for Everything.



See You.

        Edward



「また?」



気だるい体を起こせば。



そこにいたのは彼ではなくまたも落ちるように残されたメモと、バラ。





「よっぽど、せっかちなのねー…」



呟いてから、自分がどうなっているか気づく。







素肌に残る微かな赤い跡とか、それから、ベッドに残った自分とは違う金の髪。







昨日の出来事をありありと思い出した。



彼女は思わず顔を赤くする。









決して、決して、軽い気持ちではないつもりだけど。



出会って2、3日の男に、自分を奪われて。

今まで長い時間、付き合った人よりもなんだか心を開いてしまって。





そんな自分について行けない自分がいて。













彼は。











言うなれば、「運命の人」。





科学や、生態研究にはげむ自分が、意外にも見つけた言葉はえらく少女チックだった。



でも、彼に言葉を付けるなら、それしか見つからない。





好き。とも言い切れなくて、恋。とか素敵なものでもなくて、









言葉にならない。



けど、運命。











私にとっては。















分からないから、お互いを知ろうとして、夜を過ごしたのか?



分からない。





彼が何を思ってここで過ごしたかすら分からない。



朝に彼がいちいち早く消える理由も分からない。



彼が何者なのかなんてさっぱり分からない。







分からない事ばかり。











でも彼は時間とともに自分の中でふえていく。





どうにかしたいこのモヤモヤした気持ちを捨ててしまうために、どうすれば良いか分からない。



そして、途方にくれる。



















とりあえず、学校に行くため、愛用の生態書などを鞄に詰めることにした。