海の中でも君を思う・7
ずかずかと歩いて出て行くアルフォンスに、エドワードは戸惑っていた。
「ちょ、待てよ!!」
兄の話も聞かずに、彼は我を失っていた。
警戒心もなく、前だけ見て怒っていた。
いつもならすぐに気がつくはずの周りの息遣い。
それにすら気が付いていなかった。
それは、冷静さのないアルフォンスに疑問も投げかけるエドワードもそうであった。
運が悪く、リュオンは車を取りにその場にいなかった。
それは陰に潜んだ男たちにとって好機と言うしかなかったのだ。
風と合わせきることのできていない興奮した木の葉の音に、エドワードはやっと気がつく。
「アル!!!!」
エドワードは叫ぶと同時アルフォンスに体当たりをする。
間一髪のタイミングでアルフォンスは銃弾を避け、瞬時に状況を把握する。
「兄さん?!」
言いながらアルフォンスは倒れかかった体制を直す。
懐の銃をさっと出し、隠れている男たちを的にしていく。
バンッバンッバンッバンッ…
「うぅ!!」
「ぎゃあ!!」
「うお!」
……
影の不自然な音が消えるのにそう時間はかからなかった。
「ふう…」
アルフォンスが一息つく。
「…ごめん、兄さん…」
振りかえって兄を見る…と思ったが、エドワードは土の上でうずくまっていた。
「…兄さん?」
背広の黒から、鮮やかな赤色がはみ出ている。
彼が少し動くたびに、その赤色はたらたらと流れていった。
地面の土にそれは吸い込まれていく。
「兄さん!!!」
兄へと一目散に走る。
「……アルっまだ残ってる!!…」
アルフォンスはその陰の方には見向きもせず、銃口だけそちらに向けて躊躇いもなく撃った。
バンッ
「グッ…」
見も知らぬ男たちのうめき声を全く無視して、倒れる兄の前に座る。
「…に、兄さん…?」
エドワードを仰向けにして抱きかかえた。
「………だ、だいじょう…ぶだ…肩、掠めた…だけだから…」
「僕の盾になってどうするの?!なんであんなのに撃たれてるのさ?!!」
そう、撃たれたのだ。
貫通した弾が遠くでカラカラ風に揺れている。
「…朝…お前を、守るって…言っただろーが?…」
「だからって兄さんが傷つくことないじゃないか!!」
「…咄嗟に…方法が、見つから…なかったんだからしょうがーねーだろ…そんくらいで…怒んな…それに、お前が…ボスなんだから」
そう言って、笑った後、彼は意識を失う。
「っ兄さん!」
アルフォンスは項垂れた。
そこにまた不自然な木の葉の音。
アルフォンスは焦って振り返る。
「誰?!」
と思うと、そこには信頼できる人。
「ボス、早く乗ってください!……エドワード様?」
車からリュオンが叫んだ。
「リュオン!!早く兄さんを!!!」
「は、はいっ」
そうして、エドワードはブラッドレイ邸を意識のないまま去ることとなった。