痛みの走るセレナーデ(鋼 映画でエドウィン)





お前が同じ世界にいないことに絶望した今。
確かに自分で選んだ道だったのに、それでも空虚の中を走っているようにしか感じない。


なんとなく煤けたこの見慣れた町。
そのはずれに行き慣れた店。
入口にいる看板が何故か傾いているのに誰も気にかけない。
毎日喧騒とビールと活気が絶えることなく、店主が豪快に笑い続けていた。
それになんとなくの孤独感を紛らわされる自分がいた。

「よう!エドワード!!調子はどうだい?」

いつもそう店主が気にかけてくれるのだ。

「まあまあだよ」

嬉しく思いつつも、なんとなく薄く笑うことしか出来なくて。

「おまえなー、たまには嬉しそうな顔しろよ?」

「は?」

「だから彼女もできねーんだよ、せっかくの顔も台無しじゃねーか」

「…ほっとけ」

エドワードの顔があまりにもぶっくりと膨れて、店主は驚いていた。

「…なんだよ?女に振られたか?」

エドワードはふくれっ面のまま一言だけ呟いた。

「神様に振られたんだよ」

店主は面食らった。

「それは高望みだぜ?エドワードよぉ」

冗談めかして言ったつもりだったのにエドワードは至極真面目だった。

「わかってる」

店主は苦笑しながら、彼に何と言えばいいか迷ってそして言った。

「お前は若いんだ、高望みでもなんでもいいから、お前さんが望むことをしなくちゃなんねぇ」

これからはそんな時代が来るはずだから、と。
そして続ける。

「神様に振られたって、女に振られたって、意外と生きていけるもんだろ?」

「…まぁ……」

確かにそうだった。
どんなに大切な人と離れていても自分は関係なく生きていけることを知ったし、
好きだと気がついた人ともう会えない現実を突きつけられても確かに生きている。

「それでいいんだよ」

店主は笑顔になった。

「振られたってなんだって、思いたいなら思えばいい、忘れたいのなら忘れればいい、思いで死ぬことはねーんだ」

「死んでしまえた方が楽だけどな」

そんなエドワードのネガティブな考えにも全く驚くことはない。

「ははっ、そりゃそーだろうな」

店主の意外な言葉にエドワードは今度は驚いた。

「は?」

「思いで死ねたらみんな楽だぞ?苦しさを感じた瞬間死ねるってことだかんな」

「……」

「でも、そんなんだったら人間なんて一瞬で絶滅だ」

「…そうだな」

「ほらエドワード、飲みな」

差し出されたのはこの店自慢のビール。なみなみに注がれ何とかコップから零れない状態。

「お前の思いが神様の確かな存在、だろ?」

そうだ、彼女と同じ世界を生きたという認識は、思いとキリキリ叫ぶ機械鎧。
機械鎧は少し大きさが合わなくなってきていて、自分の腕として使える日々はもうすぐ終わりを告げそうだ。
そうなれば。
彼女は自分の中にしか居なくなる。

「そうだな」

いたことは確かだと言うことができる。

じゃあ
「オレは全部覚えておくことにするよ」




「また、難しいこというな?お前さんは」

「ああ、でも覚えておけば”いる”ことに違いはないから」

「そうだな、………」

店主の最後の言葉を聞かずに、エドワードはもらったビールを一気に飲み干す。
ゴトリと空のジョッキを置きながら、エドワードは言う。

「さ、今日の歌い手は誰なんだ?」

突然の話題の変化に店主は一瞬戸惑う。

「え?あ、あぁ今日はミラーの曲を美人が歌うぜ。ムーライト…」

「…そうか、じゃ、帰るわ」

「お?お前さんにぴったりの曲じゃねーのか?」

「知らねー美人に歌われたってしょーがねーだろ?」

「若いなーお前は」

「まーな、じゃ、ありがとおっさん」

「ああ、また来いよ」

エドワードは、小さな舞台に歩いていく煌びやかなドレスの女性と入れ替わりのように出ていく。
訴えるようにかすかに聞こえる歌と、存在を主張するように痛みが走る機械鎧は奇妙なハーモニーを作っていた。













セレナーデ・愛の歌
人に伝わるかどうかは分からない話ですが、気に入ってます。