誰がのために雨は降る。
(グレンラガン シモンとヨーコ ※8話ネタばれ)





「雨が…」

一面の灰色の雲に向くシモンの顔には、冷たい雨が打ち付ける。
シモンは口に水が入ることも気にせず、初めてしゃべった。そう、あれから。
カミナが話すこともなく、沈黙を保ちながら帰って来た時から。

彼は甲板で独り言のように呟いていた。


「やまないね…」

シモンの声を聞いてそう答えたのは、同じように雨に身を委ねていたヨーコ。

「泣いてる」

シモンがまだ一人でいるかのようにつぶやき続けた。

「・・・誰が?」

「誰かが悲しんでる、”忘れないで”って」

二人には「誰かが」なんて言葉に意味はなく、たった一人だけが思い浮かんでいた。

「だから、オレはこの雨を全部受け止めなくちゃ、忘れたりなんかしないよって」

それだけ言って、シモンは再び無言になった。




「違う」


きっぱりと、拒絶を感じるほどの強さでヨーコは言った。

「違うよ、シモン」

二人とも濁った空を見続けたまま。

「泣いてるのは、シモンだよ」

そう言われて思わず、ヨーコの方へ向く。
彼女変わらず上を向いたままで、頬から顎へと水が滴っている。

「シモンが泣きやめば、カミナはどこにでもいる」

「ヨーコ?」

「髪の色」

醒めるような水色?………………ああ、そうか。オレが泣きやめば、広がる。
兄貴は、泣いてなんかいないのか。
シモンは空に顔を向け直す。

「ね、シモン」

お互いに見上げたまま、話し続ける。

「うん」

言いながら彼は、顔を濡らしている水を袖で拭きとる。

「分かった」

そして、前を向く。

「オレは……泣かない、だから」

突然雨が、止む。

「ヨーコも泣かないで」

雲から一筋の光がさしはじめた。
ヨーコがこれから見る空が澄み渡る水色なのか、シモンには分からない。







唐突なグレラガ。色々衝撃を受けて衝動で書いてしまいました。