眠れる君へのセオリー (鋼 エドウィン、アル)
「あ」
テーブルを囲んで向かい合わせに談笑をしていた時。
アルフォンスがつぶやいたと同時にウィンリィが大きく傾き、椅子から離れていく。
「うお!っぶね!!」
間一髪。横にいたエドワードが彼女を支える。
当の彼女は重力になすがままになり床と「こんにちは」なんて状況になりかねなかったのに、動じることもなくこっくりこっくりとしている。
「さすが兄さん」
アルフォンスが嬉しそうに言う。
「ったく、眠くなったら寝るなんて、子どもか」
そうエドワードは支えている彼女をみて妙に焦っている。
「誰のせいだか分かってる?」
エドワードの挙動不審さに心の中で笑いながら、彼は少し責める。
「はいはい、オレのせいですよ」
機械鎧を急いで治してもらったんだからね!とアルフォンスから続けられる。
それに対しての返事はなく…いや返事する余裕もなく。
エドワードの頭の中は支えている彼女にしかいっていないことが見ているだけで分かった。
全く動かなくなった上に、目だけおろおろ。
「どうするの?」
弟はあまりにも固まっている兄に対してため息をつきながらきいた。
「こ、この状態で寝かしとくわけにもいかないだろ?」
そう必死で自分を取り繕っているエドワード。
目線は見るからに彷徨っていて、触れている自分の腕やらウィンリィの髪やら足もとやら落ち着かない。
それでも彼は弟にそれを悟られないように、しごく自然な言葉をかける。
いつもより半音上ずった声で。
「お、おい、ウィン・・リィ、お、起きろ」
アルフォンスは思わず笑いそうになるが、兄の名誉のために何食わぬ顔をする。
エドワードの努力もむなしく、ウィンリィはうん?なんて小さい声で言うだけで全く目は覚めそうにない。
「お、おい、こら!」
なんて少し髪を引っ張ってみてもだめ。
肩をゆらしてもだめ。
「アル…」
顔が真っ赤なまま、おろおろした表情で自分を見る情けない兄に、アルフォンスは頭を抱えそうになる。
「なに?あ、出て行けって?りょーかい!」
「は?!ちげーよ!」
「じゃあ何」
「ウィンリィ起こしてくれよ」
「無理」
とすっぱり言いながら、ドアの方へと去っていく。
エドワードに有無を言わす前に廊下に出て一言だけ伝えておく。
「兄さん、眠っているお姫様の起こしかた知ってる?」
満面の笑みを浮かべながら彼は部屋を出て行った。
「知るか!!」
そう言いながら、うろうろしていた視線はピタリと止まる。
寝息が聞こえる、その柔らかな赤い。
「んなこと、できるならとっくに…」
と言いながら首を振るエドワード。
誰も聞いてはいないのに、続けられる言葉はボトボトと床へ落ちてく。