僕は君の髪をとくけれど,君の心をとくのは誰?
(鋼 パラレルエドウィン)






「お嬢様、おはようございます」

そう言ったのは若く爽やかな金髪の青年。
若くも執事という立場であり、お嬢様と呼んだ彼女を主として働いていた。
部屋は赤いじゅうたんに、大きなベッド、そして、丁寧な装飾が施された机という、豪華を物にあらわしたような所だった。
華やかなレースのカーテンから光が差し込んでいる。

「…はよう……アル…」

寝ぼけながらベッドで返事をする彼女は蜂蜜色の髪が朝日に照らされている。
あどけない顔は部屋の重さとは合わないほど柔らかだった。
彼女は貴族の一人娘であり、次期の家の当主になることが決まっている。
そんな彼女は昨夜のパーティーで将来の相手となる男性を探していた。
だが、もともとそんな事に興味を持てない彼女にそのパーティーはただの重荷。
眠りにつく前に、結局疲れしか持って帰らなかったと呟いていた。

「お疲れだとは思いますが、今日はゆっくりできませんよ?」

執事の彼は笑顔で諫める。

「…私…眠いんだけど…」

「分かっております。ですから、お疲れだとは思いますが…と言ったのです。お嬢様が結婚されたい男性を申されないから、今日もお手紙に追われるんですよ?」

「えー…私、もうアルがいい―…」

なんて目をこすりながら彼女は言った。

「冗談はおやめください」

少しだけ言葉は強められた。誰にも分からないほど、ほんの少しだけ。

「なんで身分の差なんてあるのかしら?アルなら頭も良いし、顔もいいし、良い子だし。なんの問題もないのにね…」

「お嬢様、」

さっきよりも更に言葉は強められた。
笑顔は変わらなかったけれど。

「髪を梳かせていただきます」

「……考え無しなことを言った。ごめんなさい」

彼が少しだけ怒っていることに彼女は謝った。
化粧台を前に彼女が腰を下せば、優しいブラシが髪に落とされる。

「お嬢様が”この人だ”と思えばその方にアプローチすればよろしいのですよ」

鏡越しに彼のいつもの笑顔が見える。
毛先を丁寧に梳かれている。

「アル、」

「なんですか?」



「…私ね、本当はね、昨日出会ったの」

髪をといているのに構わず彼女はうつむく。
執事は少しだけ思案した後、言葉を発した。

「その方がどなたかの使用人だった、のですね?」

「…なんで分かるの?」

彼女の眼驚きで見開かれ、上を見た。
鏡越しに二人は目があう。

「昨日もご一緒でしたからお嬢様のことを見ておりましたし、私で妥協したいというのもそのような理由からかと」
即座に彼は答えた。

「アルを好きなのは、昨日のせいじゃない」

一部ははっきりと訂正された。けれど、

「私、あの人を目で追ちゃってたかな…」

「お言葉ですが、お嬢様」

「分かってるわよ、私が結婚しなくちゃいけないのは力を持つ人。家を潰してアルたちを困らせる訳にはいかないからね」

「そうではございません。お嬢様のためなのです」

完璧に髪はさらさらに梳かれ、更に蜂蜜色がキラキラとしていた。

「…分かってはいるのよ、ごめんアル。変な話した」

「いいえ。はい、髪は奇麗に梳けましたよ。朝食に行かれてください、掃除しますから」

「うん。ありがと」

そう言って彼女は自分の部屋から出ていき、一人残された彼の言葉を聞くこともなかった。














「…その使用人が僕の兄で、お嬢様に一目惚れをしてる、なんてことお嬢様が知ったらどうなるんだろうね、兄さん」


空を舞うように言葉は、フラフラと絨毯へ落ちていく。















エドウィンなのですがウィンリィとアルしか出てきません。
アルが執事でウィンリィがお嬢様。そして兄さんは違うおうちの執事さん。
それでちゃんとエドウィンが成り立つのか、よく分かりませんが。まあ、でも続きはしないな…。たぶん。